大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)22号 判決

控訴人

株式会社商大自動車教習所

右代表者代表取締役

谷岡剛

右訴訟代理人弁護士

平田薫

被控訴人

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

福田平

国常壽夫

林信

井上礼子

高田正昭

木村正敏

参加人

全国一般労働組合大阪府本部全自動車教習所労働組合

右代表者執行委員長

家田保

右訴訟代理人弁護士

河村武信

参加人

総評全国一般労組大阪地連全自動車教習所労働組合

右代表者執行委員長

溝端隆

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が中労委昭和四七年(不再)第九八号不当労働行為再審査申立事件について、昭和四八年一二月一九日付でした原判決添付命令書(以下「命令書」という。)記載の命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係については、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決三枚目表四行目「申立」を「申立て」と改める。)。

1  控訴人の主張

(一)  昭和四七年五月一一日より後に団体交渉が行われなかったが、これをもって控訴人が団体交渉を拒否したものというべきではなく、分会及び労組が団体交渉の場所について控訴人の会社内(教習所施設内)に固執したため(〈証拠略〉証参照)、交渉場所についての意見の相違があったにすぎない事態というべきである。

分会及び労組が会社内での団体交渉に固執していた事実は、昭和四八年夏以降、控訴人が団体交渉申入書ないし回答書に交渉場所と開始時間しか記載しなくなった以降も、分会及び労組の側が会社内(教習所施設内)での交渉に固執し続けたため(〈証拠略〉証参照)団体交渉が開催されなかった一事からもこれを推測することができる。結局、最後の団体交渉となった昭和四七年五月一一日の団体交渉の後、正常な団体交渉が持てるようになった昭和五二年までの約五年間の長きに亘って団体交渉を開催することができなかったのは、一にかかって交渉場所に関する双方の意見の不一致に起因するものである。因みに、昭和五二年頃分会が会社外(東大阪労働セッツルメント)での交渉を了承した後は、同所において二時間程度の団体交渉が正常に開催されて今日に至っている。

一般に、団体交渉の場所については、労使の話合いで決められるべきものであって、労働組合に優先的な指定権があるわけではない。本件においては、分会及び労組の団体交渉の申込みは、場所について会社内という条件を付けたもの以外にはないのであって、会社外の適当な場所を準備している控訴人としては、会社内団体交渉という条件に応じなければならない義務はない。

要するに、本件は、交渉場所に関する労使の意見が一致しなかったことに起因して団体交渉が開催されなかったにすぎないのであって、控訴人が団体交渉を拒否したものでそれが不当労働行為であるなどといわれる理由はない。

仮に、百歩譲って、昭和四八年夏までは控訴人が団体交渉を拒否していたとしても、それ以降団体交渉を拒否していないことは明らかであって、分会及び労組が会社内での団体交渉に拘泥し、しかも、控訴人が団体交渉を拒否しているなどと非難したために、団体交渉を開催することができない状況であった。本件命令は、この重要な事実を全く無視し、あるいは看過している点で違法不当なものである。

(二)  昭和四七年夏の一時金以降の各賃上げ・一時金の不払いについては、不当労働行為であるとする全自教及び労組側の主張は、大阪地労委昭和四八年(不)第四三号、同第六五号、昭和四九年(不)第一二号、昭和五〇年(不)第二四号事件命令書(甲第三号証)記載の命令により排斥されている(なお、昭和四七年賃上げについては労働組合法二七条二項により却下されているが、同年の一時金に関する右判断から類推すれば、内容的にも不当労働行為にはならないという結論になるものと解される。)。分会及び労組が前述のように会社内での団体交渉に固執し昭和五二年頃まで団体交渉を開催することができなかったのであり、そのため賃上げ及び一時金が未解決のまま持ち越されたにすぎないのである。

(三)  救済命令を申し立てた労働組合である参加人全自教自身が、その申立てを維持しない意向を表明している。すなわち、全自教は、控訴人に対し、当時の分会員は全員昭和五二年五月一二日付で全自教を除名されたことを確認するとともに、全自教名でなされた大阪地労委・中央労働委員会(以下「中労委」という。)における救済申立事件については全自教とは関係がないと表明してきたのであり(〈証拠略〉)、遅くとも昭和五二年九月一九日(〈証拠略〉)までに、控訴人に対し、労働組合の団体交渉申入れについて人員、時間、場所等の条件をつけて拒否してはならない旨の要求を放棄したものというべきである。

したがって、本件命令は取り消されるべきであり、本件命令の取消請求を棄却した原判決は取り消されるべきである。

仮に、このような場合には、訴えの利益の問題として処理すべきであるとする見解をとったとしても、原判決は取り消されるべきである。

2  参加人全国一般労働組合大阪府本部全自動車教習所労働組合(以下「大阪府本全自教」という。)の主張

(一)  控訴人が取消しを求めている本件命令は、再審査申立人として控訴人、再審査被申立人として全自教及び労組を名宛人とするものであるところ、第一審参加人であった労組は昭和五一年一月一九日に解散し、第一審参加人であった全自教は、昭和五二年二月から六月にかけて、大阪府本全自教と総評全国一般労組大阪地連全自動車教習所労働組合(名称は全自教と同一であるが、以下「新全自教」という。)とに事実上分裂したが、全自教と組織の同一性を有するのは、規約・組合活動方針・人的構成の同一性に照らし、新全自教ではなく大阪府本全自教である。

(二)  控訴人の主張(三)のように救済命令申立てを維持しないとか労働委員会における申立事件と関係がないなどと反労働者的言辞を弄しているのは、全自教から集団的に離脱した者らによって別異に結成された新全自教である。参加人大阪府本全自教は救済申立てを維持するものである。

3  当審における証拠関係は、本件記録中の当審書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当審も、被控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきものと判断するが、その理由については、左に付加、訂正、削除するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。当審における新たな証拠調の結果によっても、引用にかかる原審の認定判断を左右することはできない。

1  原判決一六枚目表末行「行われた」の次に「(命令書第1、3、(2)記載事実のうち、分会及び労組が三月、控訴人に対し、春闘の要求として、基本給一律一万八五〇〇円の賃上げを含む要求書を提出し、同記載のとおりの団体交渉(但し、五月一〇日の交渉時間の点は除く。)を行ったこと、右団体交渉が同記載の控訴人会社の小会議室で行われたことは、当事者間に争いがない。)」を加える。

2  同二一枚目裏八行目「第四五、」を削除する。

3  同二五枚目表一〇行目「大阪地労委の」の次に「今回の交渉については条件を白紙に戻した状態で行い、今後の交渉については労使双方でルールの確立を図ることを内容とする」を加える。

4  同二七枚目表六行目「いうべきである。」の次に、行をかえ次のとおり加える。「控訴人は、五月一一日より後の状況は、交渉場所について労使の意見の相違があったにすぎないのであって、控訴人による団体交渉拒否というべきものではない旨縷々主張する。しかしながら、(証拠略)によれば、分会及び労組が団体交渉の場所として控訴人会社の施設内(教習所施設内)に固執したことが認められるが、控訴人としては交渉場所については会社施設外を堅持するとしても、交渉の時間及び人員については柔軟に対応することは不可能ではなかったにも拘らず、交渉の場所、時間及び人員についての三条件の全てに関する団体交渉のルールが設定されなければ団体交渉に応じないという態度を崩さなかったことは前記(二)で説示したとおりであって、交渉の時間及び人員について控訴人が提示した条件は後記四で説示するとおり合理性を欠くものであり、以上の点を総合すれば、分会及び労組側にも行き過ぎた行動があったことを考慮しても、控訴人は団体交渉のルールが設定されていないことを理由として団体交渉を拒否していたものといわざるをえない。当審における控訴人の主張(一)は採用することができない。」

5  同二八枚目裏五行目「(2)」を「2」と、七行目「会社外の」を「会社から自動車で五分程度の距離にある」と各改める。

6  同三二枚目表八行目「いうべきである。」の次に、行をかえ次のとおり加える。「控訴人が両組合員に対し昭和四七年度の賃上げの実施及び夏季一時金の支給をしなかったこと自体は控訴人の自認するところであり、控訴人が団体交渉を拒否したことが不当労働行為に該当することは前示のとおりであるから、その結果としての賃上げの実施及び一時金の支給をしなかったこともまた非難されてもやむをえないものというべきであり、当審における控訴人の主張(二)は採用することができない。

五 救済の利益

控訴人は、全自教が遅くとも昭和五二年九月一九日までに控訴人に対して労働組合からの団体交渉の申入れについて人員、時間、場所等の条件をつけて右申入れを拒否してはならない旨の要求を放棄した、と主張するが、(証拠略)によれば、全自教は昭和五二年二月から六月にかけて新全自教と大阪府本全自教とに事実上分裂したこと、新全自教は本件救済命令申立てとは無関係である旨の意見を表明しているが、大阪府本全自教は本件救済命令申立てを維持する意向であることが認められる。したがって、本件命令について救済の利益が喪失したものということはできず、救済の利益が喪失したことを前提とする当審における控訴人の主張(三)はその前提を欠き、採用することができない。」

7  同三二枚目表九行目「五」を「六」と改める。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村修三 裁判官 山中紀行 裁判官 篠田省二)

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